NHK 2019年4月16日午後10時(本放送)
クローズアップ現代+「親の”おカネ”が使えない!?」

様々な社会問題を30分という放送枠内で非常に手際よくまとめて見せることに定評のあるNHKクローズアップ現代(プラス)が、認知症と銀行取引の問題に焦点を当てました。よくまとまっていたので、本放送を見逃された方も、再放送などでチェックされると良いと思います。

以前にこのコラムでも、名義人本人が認知症であることが判明した場合、銀行が口座取引を凍結するケースが目立ってきたことをお伝えしました。この番組では、問題の所在についてはほぼ周知のこととした上で、これに対する対策を重点的に紹介しています。

番組前半では家族信託を、後半では成年後見制度が紹介されており、番組構成上の意図は、(親族間に特に争いがない場合は)家族信託制度が便利であり、親族間に争いが見られる場合は成年後見制度の利用を、という方向でした。

特に、家族信託(信託目的で預金名義を家族に変更する)という仕組みの簡便性を広く伝えたという有意義な番組だったと思います。

他方、成年後見制度の紹介は少し取り上げ方が偏っていたようにも思われます。成年後見の利用により不便が生じた家族の実例が挙げられており、具体的には、「自宅の修繕のために被後見人名義の預金を使おうとしたら、4社の見積もりの取得を求められた上に、上申書なる文書をわざわざ作って提出するよう求められた」「あまりにも不便なので成年後見を取りやめにしたいと申し出たら、できないと弁護士に断られた」そういった苦情を述べる利用者が紹介されていました。

しかしながら、専門職後見人を長く務めている者からすると、番組が紹介していていない重要な事実関係があるのではないか、と推測されます。

後見人はご本人のメリットになることであれば比較的積極的に認める傾向にあり、家庭裁判所も、かなり細かな事情まで聞いてきます(現在の家庭裁判所は、こと後見事件については、本人について、個人の尊重、人権の尊重という方向で非常に配慮をする傾向があると言えます)。

上記の事例では、被後見人ご本人が自宅に住んでいるのか、施設に入居されているのか、明らかにされていません。また、家屋の修繕を行うために、誰の口座からお金を使うのか、ということを検討する際に、その家屋が誰の名義か、ということも明らかにされていません。全て推測の域を出ませんが、「被後見人ご本人がご自宅に住んでいないのに、被後見人ご本人名義の預金を使って家屋の修繕を行うという希望が出た」あるいは、「被後見人本人名義の家屋ではないのに、被後見人名義の預金を使って修繕したいと言い出した」という可能性があるのではないでしょうか。

他方で、専門職後見人である弁護士に対して「後見人制度の利用をやめたいと申し出たが、認められなかった」という不満も紹介されていましたが、一度後見が開始すると開始した事情が止まない限り後見が取り消されることはない、ということは、申し立ての際に裁判所から繰り返し伝えられることです。

さらに、番組で紹介されていた弁護士が実際に家族に対してどこまで説明していたか不明ですが、専門職後見人が関わるうち、家族が後見人としての資質があると見られる場合には、後見支援信託を利用しつつ、専門職から家族に後見人をバトンタッチする事例も現在では制度化されています(後見支援信託の利用による後見人制度)。番組で紹介された弁護士が、後見支援信託の利用を勧めたことがないのであれば不親切ですし、実際には、上記のとおり、ご本人が施設に住んでいるのに自宅の修繕をご本人の預金でまかなおうとした、というようなことが行われる可能性があったのであれば、被後見人ご本人の財産保護のため、裁判所も専門職後見人も慎重になった事案、という推測がやはり可能であるように見えます。

こういった番組の問題点も垣間見えはしますが、「親の財産を守る制度」「争族の人こそ利用価値」といった分かりやすいキーワードで制度を紹介しており、タイムリーですので、興味のある方はぜひご覧になることをお勧めします。


作成者 弁護士小川中
2019年4月17日