要介護度5であった被相続人に対する相続人1名による
介護について約750万円の寄与分が認められた事例
東京高裁平成29年9月22日決定
(平成29年(ラ)第1238号 遺産分割等に対する抗告事件)
出典はD1-Law(第一法規)

令和元年7月1日施行の改正相続法には,被相続人の親族で相続人でない方からの「特別寄与料」の請求が認められるようになりました。具体的に想定されているのは,被相続人と同居されている義理の娘・義理の息子さんなどが被相続人の介護を行った際,相続人に対して,相続分に応じて直接金銭請求ができる制度です(改正民法1050条)。

現行民法でも,被相続人に対して義理のお子さんなどの相続人でない方が介護などの世話をした場合は,相続人の履行補助者として間接的に寄与分が認められることがありますが,今回の改正はより直接的に金銭請求権を認めました。その金銭請求をする場合の基準について,参考になる裁判例を紹介します。

今回紹介する裁判例は,より原則的な「相続人が直接介護をした」というケースであり,原則的な寄与分の計算方法について,最近の東京高裁が基準を明らかにしたものとして参照価値が高いものです(具体的な事実関係などについては同じくD1-Law掲載の横浜家裁川崎支部の下級審決定をぜひご確認下さい)。

基本的な相続の関係は,被相続人(親)に対して,兄弟2名の相続人があり,相続人のうち1名が同居して介護していたという関係です。介護を担当していなかった相続人から,介護を担当していた相続人に対して遺産分割調停が申し立てられ,不調で審判移行後に横浜家裁川崎支部が行った遺産分割審判(なお,関連事件が併合)に対して,不服が申し立てられ,抗告審として東京高裁に係属しました。

この裁判例で,被相続人の状況は,平成21年から22年まで要介護4,22年途中から要介護5とされ,両上下肢まひ・洗身・食事・排尿排便・口腔清潔・洗顔・上衣ズボン着脱など全介助でした(上記下級審決定の認定事実)。

下級審である川崎支部決定では,寄与分を算定するための計算方法を示し,東京高裁もこれを概ね認めていますので,少し長くなりますが引用します。

「ア 特別の寄与

(1)で認定した事実によれば、被相続人は、近親者の療養看護を必要とする状態であったところ、相手方は、無償で継続的に被相続人の看護に専従して特別の貢献をし、これによって介護費用の出費を減少させ、被相続人の財産の維持に特別の寄与をしたと認めることができる。


イ 寄与分の算定方法

要介護者の療養監護については、介護保険制度により、要介護度に応じて定められた標準報酬額の負担のみで一定の介護サービスを受けることができるから、寄与分を算定するに当たっては、介護保険の標準報酬額を基準にするのが相当である。

もっとも、介護報酬基準等は、基本的に看護又は介護の資格を有している者への報酬を前提としており、扶養義務を負う親族と第三者とでは当然に報酬額も異なるべきものである。

したがって、寄与分を算定するに当たっては、介護報酬基準額に基づく報酬相当額に療養看護の日数を乗じ、さらにそれに修正を加える必要がある。


ウ 介護報酬基準額に基づく報酬額

要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令(平成11年4月30日厚生省令第58号)は、要介護4を要介護認定等基準時間が90分以上110分未満である状態又はこれに相当すると認められる状態、要介護5を要介護認定等基準時間が110分以上である状態又はこれに相当すると認められる状態と定めている。

一方、指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第19号)の指定居宅サービス介護給付費単位数表(平成26年度介護報酬改定前のもの)によれば、身体介護が中心である場合の訪問介護費は、所要時間90分以上120分未満の場合につき6670円(1点10円で円単位に換算。以下同じ)、120分以上150分未満の場合につき7500円になる。

以上によれば、要介護4の場合は所要時間90分以上120分未満の訪問介護費である6670円を、要介護5の場合は所要時間120分以上150分未満の訪問看護費である7500円をそれぞれ介護報酬(日当)として採用するのが相当である。」


下級審川崎支部決定は,上記の報酬基準に,日数をかけ,これに裁量割合として0.7倍したものを寄与分としました。

今回の東京高裁決定では,①早朝・深夜の割増を認めない(事実認定上も認めていません),②裁量割合として介護報酬基準の0.7倍とすることには合理性がある,といった判断をしています。

ただ,結論として,川崎支部決定に比べると,痰の吸引についての増額を認め,総額は150万円ほど増加しました。


親御さんや祖父母の方の介護で苦労されている方も多いと思いますが,現在の遺産分割審判手続では,寄与分の制度により,ある程度これに報いるという方向性があります(ただし,資料・証拠の保存も重要であり,介護そのものに加えて証拠の確保まで考えると,なかなか手間がかかると思います)。

なお,令和元年7月1日施行の改正法は,7月1日以降に始まった相続について適用されますので,現在義理の親族の介護で苦労されているような方については,令和元年7月1日以降の相続の場合に特別寄与料での保護が予定されています。資料の確保にも努めて下さい。また,改正法の特別寄与料は,行使期間が極めて短いものです。さらに,寄与について当事者間に争いのある事例の場合(典型的には特別寄与料について協議が調わない場合) ,弁護士のみが取り扱うことが可能です。対象となる方についても法令上の要件がありますので,ご心配のある方は早期に弁護士に相談されることをお勧めします。


作成者 弁護士小川中
2019年4月3日