週刊現代2019年4月6日号
「認知症になったらできなくなる手続き」

インパクトのある記事で,役に立つ部分も多いですが,やや認知症への不安感を煽るような傾向が見られるのは気になります。

役に立つ部分として,認知症を疑われた場合の銀行窓口及び不動産売買(司法書士)の対応の部分は,現在の実務のあり方として広く知られて良い記事です。感覚としては平成20年前後からでしょうか,本人確認法の施行と前後して,本人の意思確認が窓口レベルで慎重に行われるようになり,例えば,銀行の窓口が,本人の意思能力に疑問がある場合,解約,送金などの手続をストップする事例はよく聞かれるようになりました。また,不動産売買につきものの登記手続に際して,司法書士は意思確認を(チェックシートを用いるなどの方法で)厳密に行った上で記録化するよう求められており,士業としての賠償責任の関係もあり,意思能力に疑問がある場合,登記手続を受任しないことがあります。

要注意の記事は,一見分かりやすい47頁の表です。タイトルに「認知症になったら,制限がかかってできなくなること」とされ,銀行手続,不動産売買手続,仕事,趣味などの「シーン」が挙げられ,「できなくなること」という項目が並べられていますが,厳密には,「認知症になるとできなくなる」ことと,「家庭裁判所から後見開始命令が出た場合にできなくなること」が区別される必要があります。

「仕事」のシーンで「できなくなること」の一例として,「士業(弁護士,薬剤師など)として働く」というものが挙げられています。しかしながら,まず,これは「認知症になる」ことだけでは制限されず,「家庭裁判所からの後見開始命令により被後見人とされた場合」に欠格事由となる,というものです。

また,この被後見人とされた場合の欠格事由(資格制限)については,このコラムを書いている時点(2019年3月26日)時点では正しいのですが,現在の198通常国会において審議中の「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」(内閣府が当初平成30年の通常国会に提出・継続審議で現在に至る)では,公務員(国家公務員や自衛官を含む)・士業(医師,薬剤師,弁護士などを含む)・各種法人(医療法人など)の役員の就任などについて,被後見人であることを理由とする一律の欠格事由を廃止し,個別審査制に移行することが法案として提出されています。立法趣旨は,現状の広範な欠格事由が,かえって成年後見制度の積極的な利用を妨げていると見られることから,一律の欠格事由という決め方を廃止するものです。

今回の週刊現代の記事も,認知症への不安を煽るだけでなく,こういった最新の立法の動きにより,成年後見制度を利用しやすくする工夫が立法レベルで行われようとしており,「認知症になり,後見が開始した場合でも,本人の出来る範囲のことはなるべく可能にする制度設計が目指されている」,という大きな動きも追えればさらに良かったように思います。


作成者 弁護士小川中
2019年3月26日